2006年2月11日土曜日

『スワン』 (2006)

バンド編成としては5年振りとなる作品。…というわけで気合が入った。
5年を経ている空気感は自然と録音に落とし込まれるだろうという想定の元、
選曲には気を遣った。
その構想段階で男女に纏わる曲が多そうだったので、その路線で統一。
やっぱりアルバム毎に大まかなテーマを決めるとモチベーションが保ちやすい。
途中で何がやりたかったか、迷うこともない。
自分の曲に自信が持てるように、ちゃんと冷却期間も設けているし(その間で脱落していく曲もあるということだ)万全の心持ちだった。
リズム録音&ミックスは前作でも一部お世話になった大串さん。
特定の趣味性を出さない、バランスの取れたエンジニアさんで、信頼が置けた。
僕の意見を吸収し具現化させるのも非常に素早い、職人さんでした。
そして、このアルバムからは歌い方を本格的に変えた。
前作でも試していたのだが、感情を抑制してデコボコをなくす志向へと。


1.赤い髪
2004年作。録音はすべて自宅のハードディスクMTR。声は10本以上重ねてある。
この時期、クァルテット・エン・シーをよく聴いていて、コーラスに凝っていた。
譜面とか書けないので、頭がゴチャゴチャになって大変だった。
最後に頼りになるのは耳だけなので、部分部分に欲しいハーモニーを足して完成させた感じ。

2.コートを召しませ
1998年作。昔住んでた東武東上線の駅を思い浮かべて書いた曲。
このアルバムのリズム録音は代々木ステップウェイで行った。1日半で8曲分。
ちゃんとそれで成り立っている理由は、みんな巧いことと、僕という独裁者が決定権をすべて握っていること。民主主義なバンドではこうはいかない。
ドラムは小島君、ベースは吉川君。チェルシーボロでもお馴染みのメンツ。
音は全体にアンビエントの効いたライブな方向性を目指した。

3.7(セブン)
2001年作。ギターのチューニングはEADEAE(2カポ)。
変則チューニングの良い所は自分の中のコード進行セオリーが破壊されること。
これで自然と純度の高い創作になる。この曲はその点ですごく成功している。
デモを初めて聴いたレーベル・オーナーのサカモト君の感想は、
「どうして僕のことがわかるんですか!」
歌詞のことを言ってるんだろうけど、むちゃくちゃな感想だと思った。
録音前のリハーサルでスネアの入る位置を細かく指示して小島君に嫌がられた。

4.ブレーキ痕
2000年作…とは言え、サビは2005年初頭に完全に書き替えた。
弟が某音楽出版社のディレクターから歌詞の一部を書き直した方が良い、と言われたその一部が「ブレーキ痕」。絶対に間違っているその意見に何故か僕が反発し書いた曲。
ベースの動きに細かい注文をつけて吉川君に嫌がられた。
ギターソロはリズム録りしたその日に、勢いで追加。なかなかカッコイイ。

5.サンビーム
1999年作。ギターのチューニングはGオープン。志賀直哉の平成女の子版、という感じか。
サンビームという言葉は元々はヴァセリンズの曲から着想を得ている。
わかるだろうけど、書いた瞬間に傑出曲だと思ったので、すぐに当時のバンドで練習を開始。
『眠りこんだ冬』ツアーのアンコールに新曲としてやっていた。でも、タイミングが合わず、正式発表したのはこのアルバムになった。

6.パーソナル・ノー
1995年作。治らないと言われてた病気が本当に治るものか。そこがこの曲の肝。
歌詞は尋常ではないが、曲調はシンプルなギター・ロック。
しかし、それをそのままシンプルに気持ち良く演奏するだけでは物足りない、という気持ちがどこかにある。だから決して代表曲扱いにはしない。大切な曲ではあるが。

7.ジューンブライド
1996年作。小節を食うリズムのオンパレードで、これがリズム録音の難所だった。
結婚についてテクニックだけで書いたみたいだけど、
ちゃんと気持ちがこもっているので個人的には問題なし。
ライブで歌ってみたいけど、歌詞と歌詞が交錯する部分があるので、どうしても実現せず。
そもそも僕の曲はライブを念頭に書かれていない。

8.S(スピード)
一番古く1992年作。昔(1995年頃?)ポニーキャニオンの顔見せみたいなオーディションでこの曲を歌ったもんだ。その頃までは僕の代表曲だった。
いつしかその青臭さが気恥ずかしくなって封印したんだけど、
今回最後に1曲弾き語りを加えることになった時、何故かこの曲が頭に浮かんだのだ。

9.君へと傾くから
1997年作。「君」の相手が「僕」だとは一言も歌われない、実は悲しい曲。
小島君のドラムはこういうダイナミックな曲調によく合うな。冒頭の豪快なオカズもアドリブ。
僕は「しめた、しめた」と思いながら同時にエレキをグワンと弾いてました。
最後に福永君のヴィオラをオーバーダビングした。

10.僕らはこれじゃ終われない
2000年作。これは完全に僕自身のことを歌った曲で、
書いた瞬間に溜めてたものがどっと流れ出た感覚があった。
本当はもっと重厚なアレンジでトゥーマッチなぐらい盛り上げても良かったのだが、
このアルバムは曲の骨格がちゃんと分かるシンプルな形にしたかったので、これぐらいに留めておいた。
エレキのフィードバック音だけは確か高田馬場のゲートウェイでダビングした。

11.爪の匂い
2004年作で1曲目同様これも自宅録音。僕がキーボードを弾いている曲は、録音前にそのフレーズだけを一から練習して弾いている。かなり面倒くさい。
ただ、地道に少しずつ手をかけているフィーリングがサウンドに沈着していくのは悪くない。
譜面を書けないし、日常的に練習することもないので、後から再現できないのが難点だけど。
「故意」は「恋」に聞き違ってもOKだと思って歌っている。


ジャケットは黒田硫黄氏。そのいきさつについては→こちら
それに伴うタイトル命名については→こちら こちら
いいアルバムです。


BGM: