2001年10月17日水曜日

『嘘つきデビル』(2001)

前作が地方の青春模様と都会との対比を描いていたとしたら、
このアルバムはその逆。都会の青春模様と田舎との対比。
基本トラックは秋葉原にあった福岡史朗さんの地下スタジオ、BOX&COXで録音した。
それを自宅に持ち帰り、あとはミックスまで全て自宅のハードディスクMTRで仕上げた。
予算があまり無かった、というのが最初の一因であるが、
制作しているうちに、デモテープに近いその手触りの方が内容に合っているような気がして、
自分の気持ちがすごく入っていった。
で、そうなったらもう後戻りは出来なかった。
同年に出したシングル「ネヴァ・ギヴァ」は当然収録されるもんだ、と誰もが思っただろうが、
結局音の質感が異なってしまったのでオミットすることにした。
とにかくミックスまで担当したということもあり、一番アルバム作りに没入したのがこの作品だ。
丁度コンプレッサーをどっさりかけるロック・サウンドに疑問を持っていた時期で、
自分なりにその対抗策を模索していた作品でもある。
それについては、あっさり敗北を認めるものであるが、
この温かく生々しい音は、社会と隔絶した耳で聴くととても心地良い…かもしれない。

1.ハイウェイの貴公子
知り合いのディレクターがスピード狂で、その乗ってる気分を僕が代弁してあげた。
しかし、当人には不評だった。
BOX&COXにあったメサ・ブギー(Gアンプ)がぐわんと良い音を出してくれた。
長時間使用すると音がへたる、と事前に聞かされていたので、いつへたるか冷や冷やしながら弾いていた。左右から聞こえるエレピが思いのほか情緒あり。1995年作。

2.看護婦のカーディガン
どうでもいいこと、この上ないことを歌うのが好きだ。今の時代「看護師のカーディガン」と歌わないといけないのかもしれないが、それは絶対にイヤだ。
マンドリンは土臭さを出さないように心掛けた。カウベルがとてもよく似合っている。1995年作。
実はチープなCGを使ったPVがあるのだけど、殆ど世には出ていないと思う。

3.なんだか迷惑だ
1994年作。女子に人気あり。ラブソング一歩手前のヘタレ歌で、ほぼ名曲。
坂田君のドラムがドライブ感たっぷり。僕がデモで打ち込んだリズムをいとも簡単に再現してくれるのにはいつも感心する。この録音の時も1テイクでOKだった。
珍しくバンジョーを弾いているが、これはスタジオに転がってたのを面白がって使ってみたのだ。
バンジョーを弾いたのは生まれてこの方、この日だけだ。

4.マイ・サンダー
アルバム制作終盤に大急ぎで録音した曲。これはすべて自宅録音。打ち込みの音が荒いぞ。
9.11のすぐ後のリリースだったので、この物騒な歌詞については随分と周りの人から言われた。しかし、当然これは9.11以前に完成していた曲だ。ライブでやるのは今でもお気に入り。
ギャラクシー500の「ブルー・サンダー」へのオマージュも入ってます。1999年作。

5.僕の胸につっかえているイヤなこと
今から考えると無茶をしているが、このアルバムのリズム録音に際してリハーサルをしなかった。いきなり録音。事前にデモテープとコード譜を渡しておけば、何とかなると思っていたのだ。
こういう複雑な曲は、ちゃんとリハをしていれば、もう少しスリリングになっていたかもしれない。
とても気に入っている曲だが、ライブではやったことがない。1996年作。

6.今夜君に会えるといい
ギターのチューニングはEADF#BE。3弦だけを半音下げている。
2001年作で、当時一番新しい曲だった。これも全て自宅録音。
途中から出てくる2本のディストーション・ギターは徳永憲史上、一番メタリック。
弾いてる時とても気持ち良かったのを記憶している。

7.たまらず恋をする
昔のバイト先の友人宅で飼われていたカメを見て閃き、彼の曲を書く。
いつ見ても逃げようとしているカメを、彼は「子供の頃から大事に飼っているんだ」と自慢してくれた。なんとも言えない寂寞とした歌だ。思い出すことが沢山ある。1995年作。

8.ファーストフード(火曜日にはもう飽きた)
表記は「ファストフード」の方が正しいのかもしれないが、どうにも馴染めないのだな。
1999年作。これも全て自宅録音。
アルバム・クレジットに「THE BIG SLEEP STUDIO」と記してあるが、要するにそれが当時の自宅。その頃レイモンド・チャンドラーと昼寝にハマっていたから、そういう名前をつけてみた。

9.オレンジ
元々は大学生の時に書いた野心的なメロディー。
歌詞をちゃんとつけて仕上げたのは1996年の時。
これも全部自宅で作業した曲で、その一連の曲の中では一番完成度が高いと思う。
甘いようでいて、とても苦い感触が残る歌詞だ。自分的には色んな挫折を織り込んだ。
気づいてくれなくてもいいけれど。

10.未来は来るだろう
ここで出てくる田舎の風景は『嘘つきデビル』の全体的な都会っぽさと対になっているもので、
自分の中ではひじょうに重要。コントラストがあればあるほどいい。
最後に転調するんだけど、80年代っぽくない所は自画自賛できる。
静動のダイナミズムが激しかったから、ミックスには苦労した。1996年作。

11.飛べないカモメ
これが一番古い曲で、1992年作。いかにも大学生のボンクラが作りそうな甘えた歌で、
そういう所が気に入っている。短いけど、ちゃんとエモーションを湛えた歌になっているかな。

アルバム・タイトルは最後の最後に命名した。
アートワークはブライト・アイズのジャケも手がけていた山本さん、
そしてSpangle Call Lilli lineの笹原さんの写真、
どれもこれもうまくハマった。トレイ下に写っている自分は病弱そうで激ヤセだが、
まぁ、そういう時期だった、ということだ。
詮索は無用で。


当時書いていた日記→こちら