『信じるに値しない男』 特設ページ



『信じるに値しない男』
WAKRD-064
JAN/POS:4582217970643
発売日:2017.11.29
価格:¥2,300(税抜き)/¥2,484(税込)
流通:BRIDGE

01. 理論値ブルース
02. 夢から醒めてこぶしを見る
03. クロスカウンターズ
04. アイコンがいっぱい
05. 雪の結晶
06. 紳士協定
07. コックピットで怪気炎 (instrumental)
08. ユーアーダンシンクイーン
09. 嵐が来たのさ
10. 信じるに値しない男
11. 火がともる
12. やさしき人

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『信じるに値しない男』ができるまで by 徳永憲


「一人の男が今、うかつにも死んだ/あまりにもあっけなく/うかつな男
努力を重ねてきてうかつにも死んだ/悲しみは突然に/うかつな男」

2011年。僕は「うかつな男」という曲を書いた。
フォーク調の面白い曲で結構気に入っていたので、ライブで数回歌ったこともある。
そのうちアルバムにも収めようかなと思っていたのだが、
『ねじまき』(2013)をリリースした年の暮れ、父がうかつにも交通事故で亡くなってしまった。
あまりにも現実と直接的に繋がった曲になってしまったので、それ以来歌わなくなった。
しかし、これは僕の中で自分の曲作りの間違いのなさを再確認した1曲として頭に残った。
こういった文章を書く時とは違い、僕は歌詞を書く時、題材や筋立てを一切持たずに始めている。
まず先に完成したメロディがあるので、前もってテーマを色々と考えるよりその方がうまくいく。いつしかこういうスタイルに落ち着いていた。
感覚的に言葉を手繰り寄せて、するするっと仕上がるのが一番の理想だ。
頭を悩ませていたら、それはもう終わっているサイン。創作としては別日に先送りした方が賢明という書き方だ。
「うかつな男」も書いた時のことは憶えていない。
ただその時、ぼんやりと直感だけで書いたんだろう。
それだからこそ、僕は真理に近づいていたのかもしれない。
父の事故の一報を受け、弟と二人で東名高速を一気に車で走った深夜、
僕の頭の中では「うかつな男」が鳴ったし、それは僕をぐさりとやってくれた。

20年以上東京で生活していたが、それが何となくもう終わりかもしれないという感覚が、翌年にやって来た。次作の『アンサンブルー』(2015)を制作していく中でのことだ。
シリアスな面もあった前作から変わって、ファニーでふざけた、実生活の自分に近い『アンサンブルー』は最初から自分の中で不安な要素がほぼ無い、安定感のある作品だった。
そして、東京での生活にもいつまでも続きそうな安定感があった。
が、故郷では父が亡くなり、故郷の故郷たる基盤が崩れ、その対比がどうにも僕をそわそわさせ出していた。
何となくの違和感に気づかぬ振りをして生きていくことは可能だったろうが、
結局僕はこの年、歌詞を書く感覚に従うのと同じように「もう終わりかもしれない」という感覚に従ってみることにした。
周りの皆には直々に事情を説明し、頭を下げた。
そういうわけで『アンサンブルー』リリースの1週間後。
僕は家族ともども故郷の滋賀へと引っ越したのであった。

人生に於いてソングライティングのピークがどこにあるのかと言えば、
20〜30代であろう。それは歴史が証明している。
映画作家は経験に基づいた勘、技術の蓄積、熟練の眼力の上に最高傑作を40代でものにすることはあろうが、ソングライティングには経験も技術もいらない。若き才能とドーパミンさえあれば傑出した曲を書くことができる。
僕はそれを20代の頃から考えていた。いつか自分にも曲が書けなくなるだろう。
そうなったらやめりゃいいのだが、まぁ困るかもしれないので、インスピレーションで降って沸いてきたものはちゃんと何でも録音しておこうと思って、その度々にテープに残していた。
引っ越した時、そういった昔のカセットが沢山出てきた。
地元に帰り、特にやりたいこともなく、無の状態だった僕はそれらを一先ず聴いてみることにした。新しい作品を作ろうという意識はなく、ただの興味本意で。
そして、それがとても貴重な体験になった。
忘れていた曲の断片やリフ、殴り書きのメロディーの数々。
未熟なものが散見されたものの、録音した当時の空気感が封じ込まれていたそれらを聴いて、僕の脳は一気に活性化したように感じた。
忘れていた感覚が甦ってくる体験は素晴らしいものだ。
同時に僕の頭の中では、あんなことがやりたい、これをやりたかったのを忘れていた、など、色んな思いが巡り始めた。
ギターをケースから取り出し、僕はゆるゆると取り組み始めた。
すると、それに釣られてまっさらな新曲も出てきた。過去の自分に釣られたはずなのに、今まで書いたことのない、新しい今現在の自分を反映した新曲が出てきた。
『信じるに値しない男』はそういった地点から生まれた。

安定を捨てるということは新たな不安を抱え込む。当然の話だ。
でも、それが新たな刺激を生むことになる。
僕は大半の機材を売っぱらって東京を出たので、今回前から欲しかった打ち込みサンプラーのMPCとメロトロン音源を手に入れた。
バンドのメンバーでリハする恒例の過程がずっぽり消えたせいで、音楽の重心があやふやになったが、そこにつけ込んで様々なビートをぶっこんでみた。
失敗作も量産したが、楽しんでやっていた。
そして、それにより明瞭になって来ることがあった。分かっていたことではあったが、結局の所、僕の場合は、音作りをいくら楽しんで実験したところで、大元の曲に自分が愛着を持てないとスタート地点に立てないということである。アコギと鼻歌から生まれるものがやはり原点であり、それを外れた楽曲はいくらクオリティーを高めても自分の中では満足せず、亜流に過ぎない、ということであった。
それを再確認してからは制作はずんずんと進んでいった。
心の声に耳を傾け楽曲を精査し、余計なエレメンツは消去していった。そして、今回はピュアな宅録の流儀に沿って、自分自身でミックスまでやってしまった。

2017年の春に京都のマザーシップ・スタジオでマスタリングを済ませ、アルバムの音は完成した。タイトルは『信じるに値しない男』に決まった。
ワイキキ・レコードのサカモト君と電話で話した時、彼がその曲を気に入っていると言ってくれたことが決め手だ。
でも、本当はもうひとつの理由がある。僕の中では日の目を見れなかった「うかつな男」のことが頭に残っていたのだ。簡単に言うと「信じるに値しない男」は「うかつな男」が源流となっている。書いた時はもちろん無意識だった。でも、この歌の歌詞は父の死後だからこそ出てきたもので、東京を離れた僕のことを大いに反映している。
そう解釈している。
「うかつな男」から端を発し、「信じるに値しない男」と相成った。
そのドラマをアルバム・タイトルとして残し、掲げることに、
僕はピンと来たのである。