僕がギターを初めて買ったのは高校一年生の時。
メーカーのカタログを目を皿のようにして読み、雑誌の広告を飽きるほど眺めた後、
京都へ出て、四条の楽器屋でドキドキしながらレスポールを買ったのだ。
その日の事は今でも鮮明に憶えている。
しかし、そこへ行き着くまでには長い道のりがあった。
別に道路事情の話ではなく、買うまでに至った僕の中での道のりのことである。
そもそもギターを弾きたいと思ったきっかけは中学の文化祭で友達のバンドを観たこと。
当時は空前のバンドブームが到来する数年前。
友達のバンドはめちゃくちゃ輝いて見え、それは到底普通の光景ではなく、
とびきり特別なことのように思えた。
僕は衝撃を受けたのだ。
それまでに曲を作り始めていた僕は「やっぱギターを弾かな始まらん」と思った。
その時までは家のピアノを使っていたが、まったく理想の世界へと近づいていなかった。
(注:小学校の時にピアノを習っていたのです)
しかし、それで次の日エレキを買いに走る、といったお決まりのストーリーにはならない。
僕の場合。
自信がなかったので、まず僕は友達O君からアコギを借りた。
練習を始めて、向いていないことをギターを買った後で知るのはイヤだった。
それで、買う前に少しは弾けるようにしておこうと考えた。
自分で言うのも何だが、自分は全く信用ならないヤツだったので、
まずはそのヤル気に疑いをかけたのは当然の成り行きだった。
しかし、実は友達にギターを借りよう、と決心するまでにもストーリーはあった。
友達にギターを借りて、全く上達しないまま返却するときっと恥ずかしいに違いないので、
借りる前にちょっと練習しておこうと思って、
木とダンボールで原寸大のギター模型を作ってみたのだ。
で、それを抱いてみて、ステレオで曲をかけながら、エアギターのように手を振り、
それがどんな感覚のものなのか、自分自身で確かめたかったのだ。
空手の「形」は基本中の基本だが、僕もギターの基本中の基本を身につけたかった。
ネックは近所の材木置き場に落ちていた木片だ。
ボディはダンボールをカッターで切り取って、それを4枚重ねにして作った。
はじめファイアーバードの形にしたかったのだが、あの絶妙なラインをどうしても下絵に書けなくて、仕方なくフライングVにした。
作っていると、いつしか隣から頭をねじ込むようにして見ていた弟・純(まだ小学生)が、
自分にも弾かせろと主張してきた。
僕は「あかん。子供が触るようなもんじゃない」と叱ったものである。
そして、色を塗った。
ラジコンの塗装用に持っていた銀色のラッカーを塗りたくり、
あとはスイッチやらツマミ、フレットをマジックペンで書き入れ、完成させたのだ。
弟・純はあまりのカッコ良さにビビっていた。
今だったらレニー・クラヴィッツが売ってくれ、と懇願しそうなピカピカの銀色のフライングVだった。
しばらくはそれを弾いていた。
いや、音は出なかったけど、カシャカシャと手とダンボールが擦れる音はしていた。
弾いていると、右手小指の下あたりが銀色になった。
その汚れを見て僕は、今日もよく弾いたなと思ったもんだ(勉強をしろ)。
今現在、僕は弾きたいようにギターを弾けるようになって、
曲を作るのにもギターを大いに役立たせている。
あの頃の事前練習のおかげだと思っている。
本当に。
先日レコーディングで気合が入って何時間もギターを弾いた後、
気が付いたら、弦と擦れてたせいで右手小指の下が黒ずんで汚れていた。
それを見て僕は中学生の頃の「銀色の右手」を思い出したのである。
BGM:Sandinista! / The Clash