2004年12月31日金曜日

LIVE:2003-2004

■2004/12/30(木)
<Koenji Standard ~走りだせ中央線~>
高円寺ShowBoat
出演:徳永 憲、サンダルバッヂ、林 邦洋、ボンゾズ、Emmi
ShowBoatの年末イベント。久し振りに新曲を披露。
実際書いたのは数年前なんだけど、便宜上新曲なのである。

SET LIST

1.プリントドレス
2.ガールズ・フェスティバル
3.陽気なバラ
4.宙イング・サヨナラ
5.コートを召しませ
6.パーソナル・ノー
7.雨が降り続いた
8.不良少女



■2004/12/13(月)
<徳永 憲 「サイレンサー」 レコード発売記念ライブ>
下北沢440
出演:徳永 憲、エレキベース、クリームチーズ・オブ・サン、サカノボルト
オープニング・ゲスト:田所せいじ
1~4はアコギ弾き語り。5~10はバンド形式(ベース吉川真吾fromネタンダーズ、CHELSEABORO、ドラム篠原健彦from The Strikers )。残りの曲はエレキベースとの共演。対バンの内容も皆すごく充実してたし、いいイベントだったんじゃないだろうか。 最後の最後でのジャンプ転倒、数年振りにまたやってしまいました。

SET LIST

1.氷の中の女
2.ガールズ・フェスティバル
3.いつもいつも
4.不良少女
5.ハイウェイの貴公子
6.なんだか迷惑だ
7.オカエリ・ファンファーレ
8.マテリアル・イシュー
9.眠りこんだ冬
10.アイヴィー

・サマーソーダ(エレキベースの楽曲、徳永作詞)
・オートマチック・ラブラブマシーン
・優しいマペット
・ネムノキ君



■2004/11/22(月)
<HIGH BRIDGE meets mona records モナブリ vol.2>
下北沢mona records
出演:徳永 憲、佐藤良成(humbert humbert)
佐藤良成さんとセッションしたりなんかして、楽しく過ぎた夜でした。

SET LIST

1.氷の中の女
2.アイヴィー
3.日曜大工
4.ガールズ・フェスティバル
5.コーラの秘密 (with 佐藤良成violin)
6.ドルフィンズ (with 佐藤良成violin、フレッド・ニールのカヴァー)
7.気にしないで
8.今夜も暴走族の音
9.不良少女



■2004/11/19(金)
<mogran'BAR>
京都NANO
出演:徳永 憲、オカネモンプピー
翌20日(土)には京都大学の西部講堂前焼け跡で行われた 「中山酒店」 というイベントにも出演。

SET LIST(2004/11/19)

1.ビルの屋上
2.魂を救うだろう
3.ファーストフード(火曜日にはもう飽きた)
4.日曜大工
5.ガールズ・フェスティバル
6.マテリアル・イシュー
7.今夜も暴走族の音
8.メロー・イエロー
(with オカネモンスター、ドノヴァンのカヴァー)

 SET LIST(2004/11/20)

1.誰かのブルース
2.ビルの屋上
3.魂を救うだろう
4.ガールズ・フェスティバル



■2004/10/19(火)
<PLUG OUT MOSAiC 4th.scene>
下北沢Mosaic
出演:徳永 憲、岩見十夢、大久保理、神田征二朗、博成
全編アコギでの弾き語り。岩見くんと楽屋トークが弾んだ。

SET LIST
1.わんわん吠えている
2.魂を救うだろう
3.日曜の朝
4.コーラの秘密
5.トンネル
6.ラッキー
7.ガールズ・フェスティバル
8.オレンジ
9.不良少女



■2004/10/1(金)
下北沢440
出演:徳永 憲、おおはた雄一、田所せいじ、永冨真梨、熊坂路得子
ワイキキのHPで映像が見れます。力抜いているようで、熱いのさ。



■2004/9/21(火)
<NORTH HOMESICK vol.3>
渋谷gabowl
出演:徳永 憲、チキサウンズ、塚本功
BGM:サカモト ヨウイチ(エレキベース)
徳永主催イベントの第3弾。

SET LIST
1.魂を救うだろう
2.ファーストフード(火曜日にはもう飽きた)
3.プリントドレス
4.ガールズ・フェスティバル
5.陽気なバラ
6.ダイヤに人を見る目はない
7.不良少女
8.マテリアル・イシュー
9.今夜君に会えるといい



■2004/8/29(日)
<waikiki sweets>
宇田川スウィーツ
出演:徳永 憲、オカネモンスター、田所せいじ
雨。素敵な場所でした。久し振りに 「コーラの秘密」 やった。



■2004/8/18(水)
新宿LOFT bar hall
<セツナブル-スタ-企画 ~BANG!BANG!BANG!~>
「フレンド(オア・ダイ)」をやった。



■2004/4/18(日)
高円寺ShowBoat
<MATERIAL ISSUE vol.1>
出演:CHELSEABORO、Ghost Sleep、MODERN GOTHICS、西広しょうた、LOCO BROWNIE
デザイン事務所をやっている加藤君らが企画したイベント。
CHELSEABORO演奏後、ソロでイベント・タイトルになった 「マテリアル・イシュー」 1曲を演奏する。



■2004/4/16(金)
渋谷7thFLOOR
<HIGH BRIDGE presents ''SEVEN BRIDGE vol.18 ''>
出演:徳永 憲、長谷川都、epoch
久し振りのソロ・ライブ。「ガールズ・フェスティバル」 初披露。



■2003/10/31(金)
三軒茶屋GrapefruitMoon
<NORTH HOMESICK vol.1>
出演:徳永 憲、岩見十夢、キマタツトム
徳永主催イベントの第1弾。
基本的にお友達、知り合いを伝ってブッキングという軽いノリ。



■2003/8/15(金)
下北沢CLUB Que
<YANKEE'S ACOUSTIC HOLIDAY>
出演:徳永 憲、オカネモンスター、ヤングやくざ、その他DJ多数
オールナイト・イベントで弾き語り。

2004年11月3日水曜日

『サイレンサー』(2004)

いつかは作らないと、と思っていた弾き語り作品。
原点に帰り、殆どの曲をカセットの4トラックMTRで録音した。
当初はまたMuleに出してもらおうと思っていたのだが、条件が折り合わず、一時はリリースを諦めかけた。そんな時にワイキキのサカモト君が現れ「出しましょう」と言ってくれた。
別バンド、チェルシーボロの活動がそこそこ順調だったから、当時は深刻に考えていなかったけど、この時の申し出がなかったら、どうなっていたのだろうと今にして思う時がある。
本当にありがたい話だった。
またサカモト君は、ちゃんとしたエンジニアさんにミックスをお願いすることを薦めてくれた。
この判断も正しかった。粗いカセットの音が適度にブラッシュアップされ、締まった音像になった。
曲もコンパクトながら粒揃い。忘れた頃に聴いて、好きになってやって下さい。

1.盗聴キノコ
ギターのチューニングはCACFCD#。2002年作。
この時期は変則チューニングで妙なインストばかり作ってた。
シンガーソングライターとしては病んでいたかも。タイトルは「ほら、君ん家のキノコにも盗聴器が…」という意。それ以上の深い意味はない。

2.ダイヤに人を見る目はない
このアルバムの曲群は全てアコギと歌を同時に録っている。
言ってみりゃライブみたいなもの。この曲はヴォーカルが2本入ってるけど、
右のふらついている方がギターと同時に録った声である。
ギターのチューニングはCACFCD#。2002年作。

3.日曜大工
親と子の歌だが、子供ができたからといってそういう歌を作るというほど単純な話ではない。
このアルバムの中では一番古い1993年作。新しい曲群の中にこういう寝かした曲を混ぜることによって、アルバムに複雑な陰影が生まれるのが好きなのだ。
グロッケン、コーラスをオーヴァーダブ。

4.不良少女
ギターのチューニングはCACFCD#、そしてカポ。2002年作。
日本人はベタなウェットさが大好きで、いつの時代もそういうものが大衆の心を捉える。
それは重々承知なのだが、自分としてはそこに常に距離を置いていたい。
自分が恥ずかしいと感じることをやれるわけがないし、
そもそもそれを信じてやっている人に勝てるわけがないのだ。
でも、やっぱり僕も日本人なのでウェットなもの自体は嫌いじゃない。
その複雑な心境が表出している曲。歌詞そのものはバカげている。けど、ウェットなのだ。

5.しびれんぼう
2003年作。一人多重録音で、はじめてのアカペラに挑戦。
聴いての通りこれは4トラックじゃない。確かローランドのVSで録ったのかな。
しかし、それでもトラック数が足らなかった。
タイトルは映画「さびしんぼう」風に見せといて、実は卑猥なんじゃないかというギリギリのラインを狙っている。

6.クスクス
1999年作。山椒は小粒でピリリと辛い、という役回りな曲。
いつかこういう短い曲を30曲ぐらい入れたアルバムを作りたい。
それにしても「ハンガー状に男を吊るす」ってメチャクチャな日本語だな。
なんとなく言いたいことは分かるけど。

7.アノラッキー・ボーイ
2002年作のインスト。ギターのチューニングはGオープン。
昔「アノラック」と称された音楽があって、僕も好きだったんだけど、
社会的にはアンラッキーな奴に見えるんだろうな…という意のタイトル。
曲調はまったくアノラックしてないが、フードを被ったアンラッキーなボーイっぽくはある。

8.いつもいつも
ギターのチューニングはCACFCD#、そしてカポ。2002年作。
後半曲のムードが変わる。質素な4つ打ちで、フォークトロニカ的かもしれない。
このアルバムは僕にしては珍しくあまりストック曲を蔵出ししていない。
自分の中では一回リセットする感覚で作っていた。
次作『スワン』以降、またストック曲は出していくんだけどね。

9.ガールズ・フェスティバル
2004年作。アルバム制作終盤に足りない何かを補おうと思って急遽書いた曲。
結局これがリード・トラックになった。
Aメロとサビが同じコード進行なのがミソ。自分的には覚え易い。
PVは渋谷gabowlでのライブ当日にでいきなり撮ることになった。
アルバム音源は用意されてないし、あまりに無計画だったので、
(折角8ミリフィルムを使っているのに)しばらくボツという憂き目にあっていた。

10.氷の中の女
僕の音源の中でリヴァーブがこんだけかかっている曲も珍しい。
元々はチェルシーボロの為に書いたのだが、弾き語り以外にどうすることも出来なかったので、ソロ用とした。2001年作。EADEAEチューニングで2カポ。
歌詞でいつも気を遣っているのが、描写以外の部分で何が歌い手、聴き手に残っていくか、だ。
この曲の場合、死んだ女なんてどうでもいい事。
それと向き合ってる対象に刻まれ残されるであろう「何か」が重要。

11.今夜も暴走族の音
2002年作。俳句のような曲である。田舎で「暴走族」と言えば夏の季語なのだ。
これも「不良少女」と同じ路線かな。バカげているけど、ウェット。ただベタではない。
同郷の友人がこれを聴いて「あかん。たまらんわ~」と言っていて嬉しかった。
イントロでは暴走族のサイレンを模してみた。可愛いグロッケンの音だから全然迫力がない。

12.ネムノキ君
2001年作。最後の最後にものすごくヘタレな感じでバンド風バッキングがつく。
予測し得なかったことだが、この曲を書いた数年後、仲の良かった友達が亡くなってしまって、
それ以降この曲を歌う度にその友達のことを思い出してしまうようになった。
悲しくなるので、あまり歌いたくないのだが、時々は歌わねばならぬ。そういう曲。


ジャケットはここからしばらく友人である加藤くん(fromディレクションズ)に頼むことに。
顔ジャケは彼のアイディア。なんか僕のようで僕でないような、不思議な写真です。
この録音期に録音したけど、収録しなかった曲は「そっと必死にくいとめてらぁ」「焦燥感」
「宙イング・サヨナラ」「死に損なう君よ」「ハッピーバースデイ」「思いつめちゃいけない」。
行き場を見つけた曲もあれば、完全に葬られた曲もあり。復活する曲もあるやもしれない。



BGM:

2004年6月15日火曜日

虚脱のフェスタ

いつだったか、チェルシーボロの名物ギタリスト、おじいさんと二人でデザイン・フェスタin東京ビッグ・サイトを見に行ったことがあった。
グロッケンとタンバリンを肩の力を抜きながら担当している奥田さんがシルバー・アクセサリーやら皮細工などを出品するというので、もし売れてなくて落ち込んでたら可哀相なので冷やかしに行ったのだ。
そんな買うつもりゼロ、の姿勢は最初からダラダラだった。
電車の乗り継ぎ1時間強という行程は妙に変なテンションになり、
僕らは下らないB級スラッシュ・メタル・バンドの名前を次々に挙げたりして、
さながら小学校の遠足のような持て余し感で、会場へと向かっていたのであった。
だが、そんなことをしているうちに、今日という日をもっと大切にしなきゃいかんな、
と二人とも考えるようになった。
つまり、奥田さんを元気づけに行くだけじゃつまらない。
折角だからデザイン・フェスタ自体にもっと積極的に首をつっこんでみよう、と。
・・・まぁ、簡単に言っちゃうと、絶対に生息していると思われるビザールな人達をディスカバーしようぜ、と話し合ったわけだ。

そんなわけで入場。
なんだか東京ビッグ・サイトはやたらと広く、ブースもめちゃくちゃ一杯あった。
しかし、そんな広さであっても普段ではお目にかかれないような変な人達はすぐに発見することができた。サスガだ。
コスプレした人や、顔にペイントした人、体じゅうトイレット・ペーパーに巻かれた人、大真面目に稚拙なパフォーマンスをする人、出店しているくせに“近づくな”オーラを全開にしてる人などなど。
そんな中、おじいさんと僕は、ある一角に目をうばわれた。
スゴイ逸材がいたのだ。
いわゆる普通のオジサンなのだが、頭に中途半端なお面をかぶっている。
そして、何故かめちゃくちゃ疲れているのだ。壁に手をかけ、ため息をついている。
そこはグループでフィギュア系の出品をしているらしく、他にもメンバーがいるんだけど、
そのオジサンだけがその見事に疲弊した状態で、あらゆる意味でそこから孤立していた。
誰が見てもそのグループの中心人物ではなく、しょーがないから仲間に入れてもらってる風采で、一人だけ離れた場所でボーッと宙を眺めていた。
そして(何度も書くが)、それなのに一人だけ手作りのお面をかぶっているのだ。
その天然な脱力加減に僕らはノックアウトされた。
そのオジサンの素性を知りたいとか、へぼいお面の謎を解きたい、とかいうことは一切ないのだが、確かに魅了された。
その存在でそのブース一角を自分色に染め上げていたことに感心した。
というか、笑いが込み上げた。

時計はグルグルと回り、帰る頃になっても、そのオジサンが残してくれた脱力の残骸は、
僕とおじいさんを一種の爽やかさで包み込んだ。
そんなわけで、帰りはゆりかもめではなく、水上ボートに乗り、東京湾の景色をゆったり眺めて帰ろうという気になった。
潮の匂いはとても心地良かった。
奥田さんの出店であるが、そちらは上々の売上だったらしく、
僕らの元気づけはあまり必要なかったようであった。
彼女のシルバーの指環や皮のブレスレットは、なかなか人気があるらしい。



※旧ホームページより転載

2003年1月26日日曜日

ママ・トライド

最近、チェルシーボロのギタリスト、おじいさんはグレイトフル・デッドというロック・グループにハマっている。
どうやらおじいさんらしく、安楽死というグループ名に惹かれたらしい。
なので、僕はもっと恍惚の夢を見させてあげよう、と色々なCDを貸してあげた。
勿論彼は大喜びだった。
今、そのCDの中で、おじいさんが最も気に入っている曲がある。
マール・ハガードというカントリー歌手が書いた「ママ・トライド」という曲だ。
実に良い演奏が聴ける。
ついでにその曲は歌詞も良いのだ。
大人になったのに風来坊のように生きている僕らにピッタリの歌詞だ。
おじいさんに教えてあげたら、じーんと来たようなので、ここでも紹介したい。

♪~町を発つ貨物列車に乗った
   僕の行き先は誰も知らない
   誰も僕の心を変えられない
   でも、ママは頑張ったよね

   ・・・・(中略)・・・・
   監獄で21才を迎える
   今や執行猶予なしの人生さ
   ママは頑張った、そうママは頑張ったよ
   もっと僕をまともに育てようとしたけど
   それは叶わなかった
   悪いのは僕なんだよ
   ママは十分、頑張ったよ~♪


チェルシーボロは親孝行を奨励します。



※旧ホームページより転載

2002年9月13日金曜日

いざ、ギター工房へ

8月28日のグレープフルーツ・ムーンLIVEで壊れたテレキャスターを修理してもらおうと思い、
近所のギター工房に出かけた。
お気に入りのギターだ。早めに直さなくちゃいかん。
・・・が。
シャッターが下りていた。休みだった。
というより廃業のオモムキが濃厚であった。
僕のようなたまにしか来ない客の為にもう商売なんかやってられなかったのだろう。
仕方なくそのまま電車に乗り、大都会に出た。前に世話になったことのある信用の置ける優良修理店に久し振りに足を運んでみることにしたのだ。
しかし。
何とそこもやっていなかった。
ビルごと無くなっていた。景色が変ってた。
ギターを担ぎ歩き回った挙句、途方に暮れるとは・・・。
そんな残暑の昼下がりなのであった。
でも、ここで帰るわけにはいかない。
とりあえずこのギターをどっかの店に預けて、肩を楽にさせたい。
僕はもうどこでもいいや!と思いつつ、(ちゃっかり好感度の高い)石橋楽器まで歩いて行った。
そこからの会話。

徳永「ギター直しておくれ」
店員「ハイ、見せてください」
(カチャカチャ・・・10分経過)
店員「ハイ、直りましたよ」
徳永「ありがとう、はやいねぇ。お代は?」
店員「別にいいっすよ」
(店員どこかへ去る)
う~ん。
これじゃ修理店もつぶれる筈だ。
ただに勝るものはなし。
僕は半日意味もなく歩いたことも忘れ、妙に感心したのだった。
そしてまたギターを担ぎ、家路に着いたのでありました。
今夜はカレーだ。



※旧ホームページより転載

2001年10月17日水曜日

『嘘つきデビル』(2001)

前作が地方の青春模様と都会との対比を描いていたとしたら、
このアルバムはその逆。都会の青春模様と田舎との対比。
基本トラックは秋葉原にあった福岡史朗さんの地下スタジオ、BOX&COXで録音した。
それを自宅に持ち帰り、あとはミックスまで全て自宅のハードディスクMTRで仕上げた。
予算があまり無かった、というのが最初の一因であるが、
制作しているうちに、デモテープに近いその手触りの方が内容に合っているような気がして、
自分の気持ちがすごく入っていった。
で、そうなったらもう後戻りは出来なかった。
同年に出したシングル「ネヴァ・ギヴァ」は当然収録されるもんだ、と誰もが思っただろうが、
結局音の質感が異なってしまったのでオミットすることにした。
とにかくミックスまで担当したということもあり、一番アルバム作りに没入したのがこの作品だ。
丁度コンプレッサーをどっさりかけるロック・サウンドに疑問を持っていた時期で、
自分なりにその対抗策を模索していた作品でもある。
それについては、あっさり敗北を認めるものであるが、
この温かく生々しい音は、社会と隔絶した耳で聴くととても心地良い…かもしれない。

1.ハイウェイの貴公子
知り合いのディレクターがスピード狂で、その乗ってる気分を僕が代弁してあげた。
しかし、当人には不評だった。
BOX&COXにあったメサ・ブギー(Gアンプ)がぐわんと良い音を出してくれた。
長時間使用すると音がへたる、と事前に聞かされていたので、いつへたるか冷や冷やしながら弾いていた。左右から聞こえるエレピが思いのほか情緒あり。1995年作。

2.看護婦のカーディガン
どうでもいいこと、この上ないことを歌うのが好きだ。今の時代「看護師のカーディガン」と歌わないといけないのかもしれないが、それは絶対にイヤだ。
マンドリンは土臭さを出さないように心掛けた。カウベルがとてもよく似合っている。1995年作。
実はチープなCGを使ったPVがあるのだけど、殆ど世には出ていないと思う。

3.なんだか迷惑だ
1994年作。女子に人気あり。ラブソング一歩手前のヘタレ歌で、ほぼ名曲。
坂田君のドラムがドライブ感たっぷり。僕がデモで打ち込んだリズムをいとも簡単に再現してくれるのにはいつも感心する。この録音の時も1テイクでOKだった。
珍しくバンジョーを弾いているが、これはスタジオに転がってたのを面白がって使ってみたのだ。
バンジョーを弾いたのは生まれてこの方、この日だけだ。

4.マイ・サンダー
アルバム制作終盤に大急ぎで録音した曲。これはすべて自宅録音。打ち込みの音が荒いぞ。
9.11のすぐ後のリリースだったので、この物騒な歌詞については随分と周りの人から言われた。しかし、当然これは9.11以前に完成していた曲だ。ライブでやるのは今でもお気に入り。
ギャラクシー500の「ブルー・サンダー」へのオマージュも入ってます。1999年作。

5.僕の胸につっかえているイヤなこと
今から考えると無茶をしているが、このアルバムのリズム録音に際してリハーサルをしなかった。いきなり録音。事前にデモテープとコード譜を渡しておけば、何とかなると思っていたのだ。
こういう複雑な曲は、ちゃんとリハをしていれば、もう少しスリリングになっていたかもしれない。
とても気に入っている曲だが、ライブではやったことがない。1996年作。

6.今夜君に会えるといい
ギターのチューニングはEADF#BE。3弦だけを半音下げている。
2001年作で、当時一番新しい曲だった。これも全て自宅録音。
途中から出てくる2本のディストーション・ギターは徳永憲史上、一番メタリック。
弾いてる時とても気持ち良かったのを記憶している。

7.たまらず恋をする
昔のバイト先の友人宅で飼われていたカメを見て閃き、彼の曲を書く。
いつ見ても逃げようとしているカメを、彼は「子供の頃から大事に飼っているんだ」と自慢してくれた。なんとも言えない寂寞とした歌だ。思い出すことが沢山ある。1995年作。

8.ファーストフード(火曜日にはもう飽きた)
表記は「ファストフード」の方が正しいのかもしれないが、どうにも馴染めないのだな。
1999年作。これも全て自宅録音。
アルバム・クレジットに「THE BIG SLEEP STUDIO」と記してあるが、要するにそれが当時の自宅。その頃レイモンド・チャンドラーと昼寝にハマっていたから、そういう名前をつけてみた。

9.オレンジ
元々は大学生の時に書いた野心的なメロディー。
歌詞をちゃんとつけて仕上げたのは1996年の時。
これも全部自宅で作業した曲で、その一連の曲の中では一番完成度が高いと思う。
甘いようでいて、とても苦い感触が残る歌詞だ。自分的には色んな挫折を織り込んだ。
気づいてくれなくてもいいけれど。

10.未来は来るだろう
ここで出てくる田舎の風景は『嘘つきデビル』の全体的な都会っぽさと対になっているもので、
自分の中ではひじょうに重要。コントラストがあればあるほどいい。
最後に転調するんだけど、80年代っぽくない所は自画自賛できる。
静動のダイナミズムが激しかったから、ミックスには苦労した。1996年作。

11.飛べないカモメ
これが一番古い曲で、1992年作。いかにも大学生のボンクラが作りそうな甘えた歌で、
そういう所が気に入っている。短いけど、ちゃんとエモーションを湛えた歌になっているかな。

アルバム・タイトルは最後の最後に命名した。
アートワークはブライト・アイズのジャケも手がけていた山本さん、
そしてSpangle Call Lilli lineの笹原さんの写真、
どれもこれもうまくハマった。トレイ下に写っている自分は病弱そうで激ヤセだが、
まぁ、そういう時期だった、ということだ。
詮索は無用で。


当時書いていた日記→こちら

2000年12月31日日曜日

探偵さわぎ

僕が東京にはじめて出て来た時、住んでいた部屋。
その階下にちょっとした変人が住んでいた。
一日中大音量でラジオを聞いているくせに僕が物音を立てるとヒステリーを起こし天井をドンドンと棒で突き上げた。
お前の方がうるせーよ、と僕はしょっちゅうツッこんでいたものだ。
他にも色々とあって僕はその変人にはかなり不快な印象を持っていたのだが、
奴の部屋は玄関の前を通ると少し匂い、カーテンは一年中閉まっていて、窓には大きな亀裂が入っているぐらいだったのであんまり係わり合いにはならない方が得策だと思い、なるべく気にしないようにしていた。

ある休日のこと。
変人部屋にピンポーンとインターフォンが鳴り、訪れる人がいるような物音が聞こえた。
僕は珍しいこともあるもんだな、と思い窓を開け、上からその様子を伺ってみることにした。その変人は状況証拠から察するに無職であることは間違いなく、その頃には僕は一体こいつはどういう生活をしているのだろう…と興味を抱くようになっていた。
訪れた人はどうやら電気量販店の従業員らしかった。
何かの電化製品の設置に来た、と言っている。
変人はドアを開けて、招き入れているようだ。
会話が少しあるようだが、上からでは聞き取れない。
だけどゴチャゴチャと何か業者の人がせわしなく動いている様子は伝わってきた。
僕は階下が気になって仕方なくなった。
上から覗くといつも閉まっている筈の玄関のドアが開け放たれている。
そんな事は見たことがない。
いつもうすら寒くジットリと閉まっているだけのドアだ。
業者の声が聞こえてきた。
困ったトーンがする。
「あのぉ、この辺を片付けてもらえませんか?」
僕は色めき立った。
何かある!
電気量販店の人間がそんな風に訴えることなど極めて稀なことだ。
僕は我慢できなくなった。
見てみたい。下を。
僕はまだその変人野郎の実物をこの目で見たことが無かったし、当然その部屋の内部も見たことがなかった。僕は出かけるフリをして階段を降り変人部屋の内部を見てやろう、と決心した。
やるとなれば急がなくてはならない。
いつ業者が逃げ出すか分からない。
ドアもいつまでも開きっ放しではないだろう。
僕は急いでスニーカーを履き、下に気付かれないようにドキドキしながらソーッとドアを開け、あっという間にスタタタと軽快に階段を降りていった。

目に入ったのは先ず玄関に50センチくらいの層になっているゴミの山で、
ハッと気付くとそれは部屋の奥からせり出てきたものだった。
そして、瞬間的に古新聞を敷き詰めた鳥カゴのような匂いがムッと鼻をついた。
壁がひどく黄ばんでいた。
元々自分の部屋と同じものだった部屋がどうしたらこんな惨状になるのか…。
僕は予想以上の結果にショックを受けてしまった。
自分の部屋の下にずっとこんな世界がまとわりついていたなんて。
残念ながらその時人影は捉えられなかった。
変人と電気業者はゴミ溜め部屋の奥のほうにいたみたいだ。
僕は心を静めるためにそのまま外に出て、近所をしばらく散歩することにした。
しかし、心を静めているうちにあの異常さが怖くなって、今度はあの部屋の前を通って自分の部屋に帰るのが億劫になってしまった。
これはかなりの誤算だった。
知らなければ良かったのかもしれない。
1千万人以上が暮らしているここ東京には知らなくてもいいことが沢山あるのだった。
ま、1時間後ちゃんと帰ったんだけどね。
その時はもう変人ゴミ溜め部屋はいつもの様子に戻っていた。
ふぅ、である。

その深夜。
だんだん腹が立ってきた。
ずっと奴のインパクトのせいで僕はその日、奴の事を考えてしまっていた。
奴のおかげで僕の休日は台無しになったわけだ。
その休日に僕は他にやるべきことが一杯あった筈だし、
もっとリラックスして過ごせる筈だった。
それが、ばってん思いがけない精神的ストレスを蒙ってしまったのだ。
悶々と考えていると、ガチャと下の変人部屋のドアが開いた。
奴はいつも深夜になると10分ほど出掛ける習慣があった。
僕はそれを「変人のコンビニ旅行」と呼んでいた。
すると、鬱屈したストレスが僕にまた変な好奇心を起こさせた。
こうなったら今日は徹底的に奴に振り回されてやろうじゃないか。
僕はそう思うと、すばやく身支度をして玄関を飛び出した。
路上に出る。
すると50メートルほど先にぽつりとコンビニの方に歩いてゆく人影があった。
奴だ。
僕は探偵になりきることにした。
尾行でもしちゃろう。
競歩のように歩を進め、僕は奴との距離をだんだんと詰めて行く。
いくら近づいてもいいのだ。
追い抜いたとしても向こうは僕が上の階の住人だと知る由もない。
僕が10メートルほど近くに来た時、奴は案の定コンビニの明かりに吸い込まれた。
いよいよ顔を見る時だ。
その時がやって来たのだ。
僕は何でも無い顔をして、変人野郎に続いてコンビニに入った。
奴は早速立ち読みを始めている。
後ろからその姿を見た。

それはただのオッサンであった。

むさっくるしいメガネに突き出た唇、中肉中背でひよこっぽい髪型。
どこにでもいる普通の身なりのトータル・バランスの悪い、汚いオッサンだ。
見てしまうと実にあっけないものだった。
拍子抜けしてしまった。
こんな平凡な人だったのか。
コンビニを一回りして僕は帰った。
世の中には変人がいっぱいいる。
しかし、その殆どが平凡な人間なのだ。
僕の探偵さわぎはあっという間に熱を失い、終わった。


(2000年頃の文章を転載)