足腰の弱くなった老人に重宝されている杖。
みんなはあの棒を、上から目線で見ていないだろうか。
僕も以前はそうだった。
しかし、今やその無限の可能性に気づいてしまっている。
ある時、杖に似たつっかえ棒を手にしてブラブラしていた時、
「ハッ」とその素晴らしき機能性に気づいたのだ。
これはただのつっかえ棒だが、これで持ちやすいグリップ柄が備わったとしたら、
もっとスゴイのではないか。
いや、待てよ。
それって杖?
と脳内に電流が走りまくった。
あの弱き人々を助ける杖を、健康な人間が持てば、まさにその力は倍増。
すごい武器になり得るのだ。
そもそも英国紳士のステッキは武器だったという話もある。
そう、そうなのである。
勿論、世間にはもっとすごい武器が山程ある。
しかし、それらの弱点は町中で堂々と携帯できないことだ。
日本刀を帯刀して歩けば、そりゃ怖いものなしだろうが、
間違いなくおまわりさんに囲まれてしまう。
でも、杖では囲まれない。
それなのに、いざという時には、例えば、山でクマにばったり出くわした時とか、
とんでもなく心強い武器になってくれるのだ。
ああ、杖があって良かった、と。
不幸中の幸い、とはこのことだ。
吉本新喜劇の間寛平のギャグを思い出して欲しい。
ヨボヨボのおじいさんが杖を振り回す暴力的なギャグを。
誰もがあの破壊力を手にすることが出来るのだ。
「止まったら死ぬんじゃ。」と決めセリフを言えれば、みんなコケてくれるだろう。
まぁ、武器にするってのは極端な話であるが、
日常生活に於いても杖の便利な使い方は数限りなくある。
杖は思ってる以上に固いし、手頃な長さもあり、重すぎることもない。
応用力に優れている。
僕はデパートで、エレベーターのボタンを杖で押し、一度も立ち止まることなく、
すっとエレベーターに乗ったジジイを見たことがある。
その時は手で押せよ、と後ろから睨んだものだが、
成る程、杖の応用力の高さを見せ付けられた瞬間でもあった。
それから、杖で交差点を指し、道を教えているジジイも見たことがある。
普通、杖で体を支えるだろ、とその時も後ろから睨んだものだが、
成る程、節くれ立ち湾曲したジジイの指より、分かり易いのは杖だな、とも思ったのだ。
何が言いたいのかというと、杖は実は危険レベルが高いので、
老人でも取り扱いに注意してくれ、ということだ。
よくよく考えてみれば、杖を持ったヒーローもいるではないか。
ベムとか。
ベムは強いぞ。
あの杖を持った立ち振る舞いはニヒルでカッコ良かった。
あと、座頭市も杖使いだな。
中に刀を仕込んでいるのは気に入らないけどな。
そう言えば、うちのおじいちゃんも杖を持っていた。
それも自分のお手製の杖だ。
うねりの入った無骨な木の枝を削り、研磨し、ニスを塗り、
丹念に仕上げてあるカッコ良い杖だった。
使ったところは見たことないけど、
もしかしたらあれはいざという時、戦う為のものだったのかもしれない。