いつかは作らないと、と思っていた弾き語り作品。
原点に帰り、殆どの曲をカセットの4トラックMTRで録音した。
当初はまたMuleに出してもらおうと思っていたのだが、条件が折り合わず、一時はリリースを諦めかけた。そんな時にワイキキのサカモト君が現れ「出しましょう」と言ってくれた。
別バンド、チェルシーボロの活動がそこそこ順調だったから、当時は深刻に考えていなかったけど、この時の申し出がなかったら、どうなっていたのだろうと今にして思う時がある。
本当にありがたい話だった。
またサカモト君は、ちゃんとしたエンジニアさんにミックスをお願いすることを薦めてくれた。
この判断も正しかった。粗いカセットの音が適度にブラッシュアップされ、締まった音像になった。
曲もコンパクトながら粒揃い。忘れた頃に聴いて、好きになってやって下さい。
1.盗聴キノコ
ギターのチューニングはCACFCD#。2002年作。
この時期は変則チューニングで妙なインストばかり作ってた。
シンガーソングライターとしては病んでいたかも。タイトルは「ほら、君ん家のキノコにも盗聴器が…」という意。それ以上の深い意味はない。
2.ダイヤに人を見る目はない
このアルバムの曲群は全てアコギと歌を同時に録っている。
言ってみりゃライブみたいなもの。この曲はヴォーカルが2本入ってるけど、
右のふらついている方がギターと同時に録った声である。
ギターのチューニングはCACFCD#。2002年作。
3.日曜大工
親と子の歌だが、子供ができたからといってそういう歌を作るというほど単純な話ではない。
このアルバムの中では一番古い1993年作。新しい曲群の中にこういう寝かした曲を混ぜることによって、アルバムに複雑な陰影が生まれるのが好きなのだ。
グロッケン、コーラスをオーヴァーダブ。
4.不良少女
ギターのチューニングはCACFCD#、そしてカポ。2002年作。
日本人はベタなウェットさが大好きで、いつの時代もそういうものが大衆の心を捉える。
それは重々承知なのだが、自分としてはそこに常に距離を置いていたい。
自分が恥ずかしいと感じることをやれるわけがないし、
そもそもそれを信じてやっている人に勝てるわけがないのだ。
でも、やっぱり僕も日本人なのでウェットなもの自体は嫌いじゃない。
その複雑な心境が表出している曲。歌詞そのものはバカげている。けど、ウェットなのだ。
5.しびれんぼう
2003年作。一人多重録音で、はじめてのアカペラに挑戦。
聴いての通りこれは4トラックじゃない。確かローランドのVSで録ったのかな。
しかし、それでもトラック数が足らなかった。
タイトルは映画「さびしんぼう」風に見せといて、実は卑猥なんじゃないかというギリギリのラインを狙っている。
6.クスクス
1999年作。山椒は小粒でピリリと辛い、という役回りな曲。
いつかこういう短い曲を30曲ぐらい入れたアルバムを作りたい。
それにしても「ハンガー状に男を吊るす」ってメチャクチャな日本語だな。
なんとなく言いたいことは分かるけど。
7.アノラッキー・ボーイ
2002年作のインスト。ギターのチューニングはGオープン。
昔「アノラック」と称された音楽があって、僕も好きだったんだけど、
社会的にはアンラッキーな奴に見えるんだろうな…という意のタイトル。
曲調はまったくアノラックしてないが、フードを被ったアンラッキーなボーイっぽくはある。
8.いつもいつも
ギターのチューニングはCACFCD#、そしてカポ。2002年作。
後半曲のムードが変わる。質素な4つ打ちで、フォークトロニカ的かもしれない。
このアルバムは僕にしては珍しくあまりストック曲を蔵出ししていない。
自分の中では一回リセットする感覚で作っていた。
次作『スワン』以降、またストック曲は出していくんだけどね。
9.ガールズ・フェスティバル
2004年作。アルバム制作終盤に足りない何かを補おうと思って急遽書いた曲。
結局これがリード・トラックになった。
Aメロとサビが同じコード進行なのがミソ。自分的には覚え易い。
PVは渋谷gabowlでのライブ当日にでいきなり撮ることになった。
アルバム音源は用意されてないし、あまりに無計画だったので、
(折角8ミリフィルムを使っているのに)しばらくボツという憂き目にあっていた。
10.氷の中の女
僕の音源の中でリヴァーブがこんだけかかっている曲も珍しい。
元々はチェルシーボロの為に書いたのだが、弾き語り以外にどうすることも出来なかったので、ソロ用とした。2001年作。EADEAEチューニングで2カポ。
歌詞でいつも気を遣っているのが、描写以外の部分で何が歌い手、聴き手に残っていくか、だ。
この曲の場合、死んだ女なんてどうでもいい事。
それと向き合ってる対象に刻まれ残されるであろう「何か」が重要。
11.今夜も暴走族の音
2002年作。俳句のような曲である。田舎で「暴走族」と言えば夏の季語なのだ。
これも「不良少女」と同じ路線かな。バカげているけど、ウェット。ただベタではない。
同郷の友人がこれを聴いて「あかん。たまらんわ~」と言っていて嬉しかった。
イントロでは暴走族のサイレンを模してみた。可愛いグロッケンの音だから全然迫力がない。
12.ネムノキ君
2001年作。最後の最後にものすごくヘタレな感じでバンド風バッキングがつく。
予測し得なかったことだが、この曲を書いた数年後、仲の良かった友達が亡くなってしまって、
それ以降この曲を歌う度にその友達のことを思い出してしまうようになった。
悲しくなるので、あまり歌いたくないのだが、時々は歌わねばならぬ。そういう曲。
ジャケットはここからしばらく友人である加藤くん(fromディレクションズ)に頼むことに。
顔ジャケは彼のアイディア。なんか僕のようで僕でないような、不思議な写真です。
この録音期に録音したけど、収録しなかった曲は「そっと必死にくいとめてらぁ」「焦燥感」
「宙イング・サヨナラ」「死に損なう君よ」「ハッピーバースデイ」「思いつめちゃいけない」。
行き場を見つけた曲もあれば、完全に葬られた曲もあり。復活する曲もあるやもしれない。
BGM: