2004年6月15日火曜日

虚脱のフェスタ

いつだったか、チェルシーボロの名物ギタリスト、おじいさんと二人でデザイン・フェスタin東京ビッグ・サイトを見に行ったことがあった。
グロッケンとタンバリンを肩の力を抜きながら担当している奥田さんがシルバー・アクセサリーやら皮細工などを出品するというので、もし売れてなくて落ち込んでたら可哀相なので冷やかしに行ったのだ。
そんな買うつもりゼロ、の姿勢は最初からダラダラだった。
電車の乗り継ぎ1時間強という行程は妙に変なテンションになり、
僕らは下らないB級スラッシュ・メタル・バンドの名前を次々に挙げたりして、
さながら小学校の遠足のような持て余し感で、会場へと向かっていたのであった。
だが、そんなことをしているうちに、今日という日をもっと大切にしなきゃいかんな、
と二人とも考えるようになった。
つまり、奥田さんを元気づけに行くだけじゃつまらない。
折角だからデザイン・フェスタ自体にもっと積極的に首をつっこんでみよう、と。
・・・まぁ、簡単に言っちゃうと、絶対に生息していると思われるビザールな人達をディスカバーしようぜ、と話し合ったわけだ。

そんなわけで入場。
なんだか東京ビッグ・サイトはやたらと広く、ブースもめちゃくちゃ一杯あった。
しかし、そんな広さであっても普段ではお目にかかれないような変な人達はすぐに発見することができた。サスガだ。
コスプレした人や、顔にペイントした人、体じゅうトイレット・ペーパーに巻かれた人、大真面目に稚拙なパフォーマンスをする人、出店しているくせに“近づくな”オーラを全開にしてる人などなど。
そんな中、おじいさんと僕は、ある一角に目をうばわれた。
スゴイ逸材がいたのだ。
いわゆる普通のオジサンなのだが、頭に中途半端なお面をかぶっている。
そして、何故かめちゃくちゃ疲れているのだ。壁に手をかけ、ため息をついている。
そこはグループでフィギュア系の出品をしているらしく、他にもメンバーがいるんだけど、
そのオジサンだけがその見事に疲弊した状態で、あらゆる意味でそこから孤立していた。
誰が見てもそのグループの中心人物ではなく、しょーがないから仲間に入れてもらってる風采で、一人だけ離れた場所でボーッと宙を眺めていた。
そして(何度も書くが)、それなのに一人だけ手作りのお面をかぶっているのだ。
その天然な脱力加減に僕らはノックアウトされた。
そのオジサンの素性を知りたいとか、へぼいお面の謎を解きたい、とかいうことは一切ないのだが、確かに魅了された。
その存在でそのブース一角を自分色に染め上げていたことに感心した。
というか、笑いが込み上げた。

時計はグルグルと回り、帰る頃になっても、そのオジサンが残してくれた脱力の残骸は、
僕とおじいさんを一種の爽やかさで包み込んだ。
そんなわけで、帰りはゆりかもめではなく、水上ボートに乗り、東京湾の景色をゆったり眺めて帰ろうという気になった。
潮の匂いはとても心地良かった。
奥田さんの出店であるが、そちらは上々の売上だったらしく、
僕らの元気づけはあまり必要なかったようであった。
彼女のシルバーの指環や皮のブレスレットは、なかなか人気があるらしい。



※旧ホームページより転載