2008年10月15日水曜日

山で迷子の秋

小学2年生の時、クラス全員で山で迷子になったことがあった。
社会の授業の一環として、みんなでバスに乗る体験をした時だ。
僕らは中川先生という髭もじゃもじゃのオジサン先生に連れられてウキウキ気分でバスに乗り、
近くの山へ行ったのだが、そこで先生もろとも迷子になったのだ。

原因は中川先生が「帰りのバスは山の向こう側から乗ろう。」と言い出したこと。
そして、途中、クラスのトラブルメーカー郷野君が「ぼく近道知ってる!」と不穏なことを言い出し、
こともあろうにその意見に中川先生が乗ったこと。
「よ~し!そっちへ行ってみよう。」
…山をなめちゃいけない。
僕らクラス全員は不安がりながら山道を進んでいったのだが、
案の定しばらく歩いていくと行き止まりになった。
中川先生の顔は少々曇ったものの、まだまだポジティブだった。
「よ~し!引き返そう。」
…そうして完全に迷ってしまった。

中川先生は今から考えると相当に自由な先生だった。
でも、僕らは郷野君をボロクソに言っても絶対に先生のことは責めなかった。
実の所ワクワクしていたし、
先生と一緒にいることで「何とかなるだろう」という安心感があった。
実際のところ、何とかなった。
その後、僕らクラス全員は山の下にあるバス停を見つけ、
そこから無事小学校へ帰ることが出来た。
授業時間は大きく過ぎ、学校は給食後の昼休みだった。
先生は「誰にも言うな」と言った。
そして「腹が減ったので早く給食を食べよう」と言った。
楽しかった。

今でも僕が時々思い出すのは、
迷った山道で木漏れ日のなか落ち葉を踏みしめて歩いた感触だ。
そういった人生の中の眩しい一瞬を誰しも持っていると思う。
『裸のステラ』聴いてみてね。
(おわり)


※JUNGLE LIFE誌のセルフライナーノーツ用にいくつか書いた文章の中のひとつ。
全然ライナーノーツになってないのでボツ。