2000年10月4日水曜日

『眠りこんだ冬』(2000)

このアルバムから完全セルフ・プロデュース状態に入る。
というわけで、以前からやりたかったパワーポップ路線へと突入。
似合わないと言われて封印していたブルース・ハープやボトルネックも演奏するわ、
勢い任せに叫んでいる曲もあるし、かなり羽根を伸ばした状態。
今冷静に聴けばヴォーカルに力が入り過ぎの曲もあるが、
そういうモードだからこその青春っぽさ全開という気もする。
そう、これは青春をコンセプトに作られた作品だった。
曲調はいくらか若く、90年代前半に作られた楽曲が多い。
もうすぐ20代も終わるというこの時期に、今作らないとタイミングを逸する、
とはっきりと意識していた。
ギリギリのところで若さを爆発させたアルバム、といったところか。

1.フレンド(オア・ダイ)
1994年作。飲み会という理由だけで騒げなかったのは、若くてプライドがあったからだ。
30代を越えたら飲み会という理由だけでウキウキしてしまうよ。
昔は親睦会って言葉が大嫌いだった。そのいらだちが歌になった。熱い。
他の曲もそうだが、リズム録音は主に代々木ワンダーステーション。

2.気にしないで
1991年作。こういうナーバスな曲はもう書けない。まだ大学生だった。
寺谷さんはピチカートでも叩いてた激ウマなドラマー。スマートで洒脱。仕事人だった。
ピアノ・ソロは昔のデモテープそのままを鶴来さんに弾いてもらった。
PVは練馬の光が丘公園にて撮影。最初病院のベッドに乗りながら歌いたい、と言ったら
コロコロ付きの丸イスで妥協してくれ、と言われた。
因みにシングル・ジャケの案は僕が出したもの。
デザイナーの木村さんがそれをポップに仕立ててくれた。

3.ラブソング・ナンバー1
1993年作。東京に来た頃の気分がかなり投影されている。独りでもがいている人の為の歌。
タイトルはおちゃらけ、というよりは挑発。
ホーン・セクションはスリルの方々。はじめはもっと派手なアレンジだったのだが、
僕には豪華過ぎるように感じたので、とことん地味にしてもらった。申し訳なかった。

4.読書のポーズ
1995年作。これも青春の1ページ。
本は好きだけど、本を読む自分が好きって考え方もあるよな。
ドラム・パターンはキンクスを参考にした。寺谷さんは本当にタイトだ。
録音したスタジオは麻布だったんだけど、この頃サルが出没していた。(どうでもいい)

5.工業都市のため息
1996年作。ボブ・ディランの「おもいぞパンのビン」の一節「マンガ本と僕、僕らだけでバスに乗る」からインスパイアされて書いた。
何故だかレコーディングのことは(ギロを使った時以外)憶えていない。
だけど、出来としてはいいんじゃないだろうか。アルペジオが工芸品みたいだ。

6.トンネル
中学生の頃からオリジナルは作っていたんだけど、初めて本格的に日本語で書くようになったのが20才の時。この曲はその第一歩。というのは前にも書いたな。
若書きのようでいて、今でも歌える普遍性もあるような。
不思議だ。
等さんのウッドベースと、鶴来さんのピアノが柔和で美しい。1991年作。

7.80年代
1994年作…とは言えメロディー自体は高校生の時に作った。
それを引っ張り出してきて日本語を乗せたら、こういう歌詞になったと。
しかし、内容は90年代でも00年代でも適用できるんじゃないかな。
ガット・ギターを弾いているのはかなり珍しい。甘い音色が曲調に合っていると思う。

8.眠りこんだ冬
雪原を走るJR電車に乗った自分をただ描写しただけの曲。
アルバム・タイトルにもなって、当然ジャケットの世界ともリンクしている。
アウトロを途中でフェイド・アウトするかどうか、で非常に悩んだ。
でも、ベースの吉川君がこのアウトロを絶賛していたので残した。確かにこれは痺れる。
左右のダブル・ドラムを提案したのは坂田君。1996年作。

9.ひっこみじあん
1994年作。若さが持つ強さってのは経験の浅さに裏打ちされたものだ。
そして、若さが持つもろさってのも経験の浅さに裏打ちされたものだ。そういうラブソング。
凝ったコーラス・ワークは昔のデモテープを再現した。
そういった上モノの録音は、主に四谷天窓と同じビルに入っていたスタジオで作業することが多かった。

10.雨が降り続いた
1996年作。ギター・ソロは僕が最初に自宅で録ったデモのテイクを採用。サンプリングした。
二度と同じようなソロを弾けなさそうだったので。
全体の音の質感はまさしくエンジニア土井さんの世界。どっしりしている。
「リンゴン リンゴン」とは鐘の音。そして、次曲にも鐘が打たれる。

11.オカエリ・ファンファーレ
1994年。元々のタイトルは「オカ・エリロ・ボコン」。
作った当時、渋谷系が流行っていて、それを(誰にも知られぬよう)揶揄している。
オシャレさんが間違ってフランス語風に発音したら最高だ、とニヤニヤしていた。
で、中黒の位置がおかしいにせよ、念の為スタッフが東映に確認を取ってみたら、
歌詞で歌われる分にはいいけど、タイトルには勘弁、という返事だった。
というわけでファンファーレになった。
ヴォーカル録りの日は発熱していた。しかし、締め切りが迫っていたので強行。
PVは等々力の多摩川周辺で撮影した。最後に土手でワーゲンを運転した感触は良かったよ。

12.飛び出しナイフ
1992年作。歌詞は色々と書き直して、最後はパズル状態。数行しかないのに。
そして短い曲なのに、地味に何度も転調している。変だ。

13.マテリアル・イシュー
自宅のガレージでガス自殺をしたマテリアル・イシューのリーダー、ジム・エリスンに捧げた。
ダイアンとかヴァレリーとか、女の子の名前の曲が多かった人だった。1996年作。
ちなみに「気にしないで」のカップリングにした「不時着ヴァージョン」はリズム録りした時のヴォーカルをそのまま使ったもの。ヘロヘロでかっこいい。

ジャケットは越後湯沢の近くの町で撮影したもの。
(川端康成好きとしては、雪国と言えばここしかない)
自分にはアルバムを録音する前からコンセプトが見えていたので、
スタッフにお願いして、かなり前倒しで撮影に行ったのでした。



BGM: